ベテランへの質問を、AIと一緒に作ってみる
名義:roto
1. 参加条件を整えても、何を聞くか決められない
前回の記事では、忙しいベテランへ協力を求める前に、時間や利用範囲、本人確認、断る余地まで含めて参加条件を整える必要があると書いた。
その条件が整っても、私は次のところで止まった。何を聞けばよいのか、うまく決められない。
何を知らないのかが、聞き手自身にも分かっていないからだ。
手順を聞くのか、判断の理由を聞くのか。失敗した事例から入るのか、普段の流れから聞くのか。考え始めると、聞いておきたいことばかり増えていく。全部を並べれば、忙しい相手へ長い質問票を渡すことになる。
だから私は、質問の完成をAIへ任せるのではなく、自分がどこで分からなくなっているのかをAIと一緒にほぐす方法を考えている。
ここから先は、これから相談会やヒアリングの中で試す設計案である。まだ効果は確認できていない。
2. まず、一つの事例に絞る
「仕事のコツを教えてください」では、どこから話せばよいのかも、どこまで聞けば終わるのかも見えない。
まずは、一つの事例に絞る。例えば、判断に迷った一件や、通常とは違う対応をした一件を対象にする。前回考えた一事例・十五分という範囲も、ここで入力条件にする。
既存の手順書や記録は先に確認し、そこに書かれていることと、本人にしか聞けないことを分けたい。知りたいのは手順の読み上げではなく、その場で何に気づき、何を比べ、なぜその判断を選んだのかである。
最初から質問を増やすのではなく、扱う場面を小さくする。この順番なら、AIにも「質問をたくさん出して」ではなく、「この一件を理解するために、何がまだ足りないか」と頼める。
3. AIに渡すのは、完成した質問ではなく迷い
AIを使うなら、こちらが目的と質問を完成させてから入力しなければならないように感じることがある。
けれども、今回渡したいのは、完成した質問より前にある迷いである。例えば、次のように依頼する。
一つの事例について、十五分程度で判断の経験を聞きたい。既存資料は確認するが、何を聞くべきかはまだ整理できていない。分かっていること、私が先に決めること、本人にしか聞けないことに分けてほしい。
ここでAIに任せたいのは、質問票の自動作成ではない。
すでに資料で分かることまで本人へ聞こうとしていないか。聞く目的や記録の使い道など、私が先に決めることを相手へ預けていないか。反対に、その場で何を見てどう判断したかという、本人にしか答えられない部分が残っているか。そうした不足を見つけるために使いたい。
分けてみて初めて、質問を考える前に自分で決めなければならないことも見えてくる。AIから完成品を受け取るのではなく、聞き手側の準備不足を表へ出す作業である。
4. もっともらしい言葉を、判断の流れへ戻す
質問を考えていると、「判断基準」「例外」「暗黙の前提」といった、分かったようで具体的な場面が見えない言葉が出てくる。
例えば、次の質問だけでは広すぎる。
判断基準を教えてください。
これをそのまま使わず、一つの場面で判断が進んだ順番へ戻す。AIには、抽象語の説明を求めるより、実際の場面を思い出せる問いへ分けるように頼む。
- そのとき、最初に普段と違うと感じたのはどこですか
- 何を確認して、選択肢を絞りましたか
- 最後にその判断を選んだ理由は何ですか
- どの条件が違えば、別の判断になりますか
状況があり、気づきがあり、確認と迷いを経て、選んだ理由がある。さらに例外となる条件までたどれば、単に「こうする」という手順だけでなく、判断が成り立つ流れを聞ける可能性がある。
もちろん、この四問を毎回そのまま使うわけではない。既存資料で分かる問いは外し、その事例を理解するために必要なものだけを残す。
5. 答えの使い道から、質問を削る
質問を作っていると、念のため聞いておきたいことが増えていく。しかし、質問数が多いほど、良いヒアリングになるとは限らない。
聞いた答えを何に使うのかが決まっていなければ、記録は増えても、次の人が判断できる知識にはなりにくい。
質問を残すか迷ったときの中心は、「この答えを、誰のどの判断に使うのか」である。説明できない質問は、相手の時間を使ってまで聞く理由が弱い。既存資料で足りる質問、一つの事例から外れる質問、同じ答えになりそうな質問も、いったん外す候補にする。
AIには、質問を追加するだけでなく、答えの使い道を一問ずつ言葉にし、重なる問いをまとめ、今回聞かなくてもよいものを示すように頼みたい。
残すかどうかを決めるのは人である。質問を減らすこと自体が目的ではなく、相手の時間を使う理由を説明できる問いだけにする。
6. AIが作るのは、質問の下書きまで
AIと一緒に作りたいのは、長い質問票ではない。聞き手自身が何を知りたいのかを理解したうえで差し出せる、短い質問の下書きである。
その下書きを実際に使うか、どの言葉に直すか、相手にどこまで協力をお願いしてよいかは、人が判断する。AIは質問相手の事情を最初から知っているわけではないし、すでに共有されていることを重ねて聞けば、それだけでも負担になる。
ここまで書いた方法は、まだ設計案である。AIと問いを分解することで、質問を短く具体的にし、聞いた答えを判断に使える形で残しやすくなるのか。実際のヒアリングで確かめたい。
最初から完成した質問を探すのではなく、一つの事例に絞ってAIと迷いを分け、答えの使い道から問いを削り、最後は自分で選ぶという往復そのものが、問いを育てる過程になるのだと思う。
そして、質問の中身を整えても、相手との距離感に合う伝え方になっているとは限らない。AIは、質問者とベテランの関係を知らない。
次回は、その関係を踏まえて質問を整えるには、AIへ何を伝える必要があるのかを考える。